兎は月に帰る夢を見るか

朝一、とある訃報を目にした。私のかけがえのない友人の一人、私の大好きな演奏家さんの飼っていた兎が、亡くなってしまったというのだ。年齢は8歳と2ヶ月、人間で言えば100歳近いおばあちゃん兎だ。

 

その人の音楽に出会ったのは今から約一年前。普段は関西を中心に活動をしているその人がこちらにやってくるということで、一人で大都会へ飛び出し演奏を聞きに行った。三鷹市ある小さなライブバー、その人はアコーディオンを引きながら歌を歌った。楽器が笑い、音が泣く瞬間を生まれてはじめて目の当たりにした。その日以来、私はアコーディオンの音色が大好きになった。今では関東に来る度に、必ず遊びに行っている。

 

「もしこの子がいなくなってしまったら、私はきっといつも通りに過ごそうとするだろうな。大好きなご飯をお供えして、一緒にお散歩した公園に遊びに行って。そうしてゆっくり死を受け入れて、次の日になったら心から祈りを捧げたい」2月の頭、ライブに遊びに行ったとき、その人はそんな話をしていた。自分の大事なものが亡くなってしまったときどうするか、その答えを歌にして披露してくれた。燃えるようなアコーディオンの音色と、心臓に突き刺さる力強い声、それらは霧雨のようにしっとりと私の心を濡らし、様々な感情を残していった。

 

次に行くのは春先かなぁ、そんなことを溢していたのを思い出す。あの人を置いてお月さまに帰ってしまった愛らしい兎、今日は雨雲の向こうに行ってしまったみたい。