ビー玉を踏む

先日、弟が入学式だった。

東京の専門学校に通うために独り暮らしを始めた私の弟。18年一緒に暮らしてきたが、まさか私より先に一人立ちするとは思わなかった。

 

彼は真面目だ。真面目で、実直で、不器用な男だ。何があっても笑ってごまかし、一人で悲しみや怒りを圧し殺すような奴だ。

私とは全く違う、不思議なほど正反対だ。

だけど不思議と喧嘩はなかった。自分でいうのもおかしな話だが、兄弟仲は良かったと思う。

 

彼の引っ越しの日、私は親戚の法事に出ることになっていた。

本当は私も手伝いにいきたかった。喪服を着て見送りなんてしたくなかった。

せめていつも通りを装い、自室に飾っていたフィギュアを一つプレゼントして、「いってらっしゃい、風邪引くなよ」と声をかけた。たったそれだけ。

ひらひらと手を降りながら、葬儀所行きの車に乗った。

 

あれから1週間。

彼は大学生になった。

18年ぶりの家族4人暮らし。

一人分静かになった我が家は、今日も変わらずそこにある。